「ユキトさん……ユキトさん! しっかりして下さい……」
(ん……この声は……)
床に激突し意識を失っているユキトの脳裏に声が響いてきた。聞いたことがある懐かしい声。だが、その声の持ち主がこの場にいる筈はないと思い、今自分の脳裏に響いている声は幻聴なのだとユキトは決めつけた。
「ユキトさん……わたしです、ミスズです!」
「!?」
ミスズ――!? その名を確かに聞き取ったユキトは一気に目を覚まし意識を整えた。
「ユキトさん……良かった……」
「な……バカな……?」
ユキトに呼びかけ続けていた声の主は行方知れずのミスズだった。
いくら行方不明になっているからとはいえこんな所にミスズがいる筈がない。俺は目が覚めても尚幻覚を見続けているのか!?
「消えろ、ミスズの幻覚! 目障りだ! 消えろ!!」
「ユキトさん、わたし、本物のミスズです。幻覚なんかじゃありません!」
「うるさい! ミスズがこんな所にいる筈がない! お前は幻覚に決まっている!!」
今自分の目の前で起きていることは、どう考えても幻覚だ!そうユキトは心に叫び幻覚であるミスズを必死に打ち消そうとした。
「ユキトさん……」
ミスズは哀しそうな顔を浮かべてゆっくりとユキトに近付いて行った。
「ち……近付くんじゃない! 消えろ!!」
「ユキトさん……逢いたかった……」
ゆっくりとユキトに近付いて来たミスズは、倒れ込むようにユキトに抱き付いた。
「あっ……」
その瞬間、ユキトの抱いていた疑念は全て吹き飛んだ。この感触、肌触り……間違いなくミスズのものだ……。直にミスズに触れたことにより、ユキトは目の前のミスズが紛れもなく本物のミスズであると確信した。
「ミスズ……無事で良かった……。俺こそどんなにお前に逢いたかったことか……」
「ユキトさん……」
「ミスズ……」
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SaGa−23「幻聴と幻覚の中で……」
「シオリ……。もしかして君は僕の後を追いかけて……」
ひょっとしてシオリは自分を追ってつらい試練に乗り込んだのか?そう思いユリアンは目の前のシオリに声をかけたのだった。
「うん……。ユリアンがつらい試練に行ったって聞いて……。無事で良かった……」
ユリアンの安否が確認されたことを喜ぶ様に、シオリはユリアンに近付いて行った。
「シオリ……」
ユリアンの気持ちは複雑だった。シオリが自分を追い掛けて来たのは嬉しい。でもこの試練をシオリには受けさせたくない。
「待てよ……!?」
そこまで思考を張り巡らし、ユリアンは待てよ!と思った。シオリが自分の後を追って来た可能性は確かに否定出来ない。だがシオリはどうやって自分がつらい試練を受けているのを知ったのか。この試練の間の前には案内人は一人もいなかった筈。
ロアリングナイトが教えたのか。それとも廟人がたまたま自分達がつらい試練の間に向かって行ったのを見掛けたのか。
それらの仮定を認めたとしても、まだユリアンには腑に落ちないことがあった。仮にシオリが自分がここにいることを何らかの手段で知ったとしても、どうやってここに辿り着いたのか。あのロアリングナイトを一人で倒したのか?
いや、それはまずあり得ない。自分とユキト、二人掛かりでようやく倒したのだ。実質はユキトの一人手柄だが、それでもシオリにあのロアリングナイトを倒せる筈がない。
では仮に倒せたとしてもどうやってこの場所に辿り着いたのか。自分達と同様に落ちたのならシオリも多少の怪我を負っている筈だ。しかし、目の前のシオリには特にこれといった外傷は見当たらない。自分より早く目覚め術や傷薬で傷を治したのか。それとも下に降りられる別のルートを使って辿り着いたのか?
「えっ!?」
自分に近付いて来るシオリを見てユリアンは困惑した。さっきまでシオリには傷一つ無いと思っていたら、凝視するとシオリは傷だらけだったのだ。
「一体どうしてしまったんだ僕は。傷一つ無いと思っていたシオリが傷だらけじゃないか。まるで幻覚でも……っ!?」
試練……幻覚……。この二つのキーワードからユリアンは一つの仮説に辿り着いた。今自分がいるのはつらい試練の間。ひょっとしたならこれが試練なのではないか、幻覚を見せ挑戦者の精神力を試す試練ではないか?
「ユリアン……」
傷付いたシオリがユリアンに倒れ掛かって来た。そのシオリをユリアンは反射的に抱き抱えた。
「ユリアン……このまま抱き締めて……」
「違う……君はシオリなんかじゃない! シオリはそんなことしない!!」
「ユリアン、お願い! ユリアンの温もりが欲しいの!!」
「シオリ……ごめんっ!」
自分に抱き付いて来たシオリをユリアンは床に押し倒す様に引き離した。
「ユリアン……どうして……?」
「シオリ……。ううん、君はシオリなんかじゃない、君は僕が見ている幻覚だ。シオリはそんな直接的に僕に近付くような人じゃない。例え気があってもシオリは奥手に遠回しに近付いて来る女の子だ!
シオリはお前みたいな積極的な女の子じゃない! 誰よりも純粋で力強い女の子だ!! 僕は胸を張ってそう言える。消えろ、シオリの幻! 地走り!!」
ユリアンは腰に掲げた東方不敗を抜き、シオリに向かって大剣技地走りを繰り出した!
「ギャアアアアア〜〜!!」
すると目の前のシオリはシオリの声とも似付かない金切り声をあげ、床に倒れた。
「はぁはぁはぁ……」
地面に倒れたシオリは徐々に正体を現した。その正体は女性の姿をしたモンスター舞姫だった。
「こいつが僕にシオリの幻覚を見せていたのか……」
原理はよく分からないがこのモンスターが自分に幻覚を見せていたのだ。恐らくこのモンスターの幻覚を破り、且つそのモンスターを倒すのがこの試練なのだろう。
ともかく一つの試練をクリアした。これでつらい試練が終わるのなら終わるに越したことはない。そうユリアンは胸を撫で下ろした。
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「そういえばユキトさんは……」
東方不敗を腰に戻し再び聖王の兜を被ると、ユリアンはユキトの方へ目をやった。あれからユキトさんはどうなったんだろう。目が覚めているに越したことはないけど、もし自分の様に幻覚に苛まされていたら……?
ユキトもまた試練の渦中にあるのではないかとの懸念が少なからずユリアンにはあった。
「ユキトさん……!?」
ユリアンの懸念は当たっていた。いや、状況は予想より悪いものだった。ユキトの目は幻覚の中にあり、あさっての方角を見ていた。しかもそれどころか、ユキトに寄り添う様に舞姫が抱き付いていたのだ。
「ユキトさん……」
その光景がユリアンにとってはあまりに意外なものだった。自分の懸念はユキトが幻覚に苦しんでいる程度のものだった。しかしユキトは苦しみを超え、既に幻覚に取り込まれていたのだ。
自分より技術も意志もあるユキトがこうも簡単に幻覚に屈するのかとユリアンは絶句した。
「ミスズ……」
「!?」
もしや! とユリアンは思った。もしかしたならユキトさんはミスズ姫の幻覚を見せられているのではないか? それならばユキトさんが幻覚に屈しても不思議ではなくなる。ユキトさんはエル=ファシルが滅びてからのこの数年間、ミスズ姫を探し出すことに生涯を捧げてきたんだ。そこまで大切に想い続けている人が目の前に現れたなら、例えユキトさんでも幻覚を受け入れてしまうかもしれない。
「ユキトさん! 幻覚に惑わされては駄目です! その人はミスズ姫なんかじゃありません! 早く、早く目を覚まして下さい!!」
いずれにせよこのままではいけない、何としてでもユキトさんの目を覚まさなきゃ! そう思いユリアンは必死にユキトを呼びかけた。
「ミスズ……」
しかしその声はユキトには届かなかった。ユリアンの必死の呼びかけは虚空を舞うだけだった。
「くっ、こうなったら……」
声が届かないなら実力行使に出るまで! そう思ったユリアンは東方不敗を抜き、舞人に向けて構えた。
「地走り!!」
元凶を倒せばユキトさんも目を覚ます筈。そう思ったユリアンは舞人に向かって大剣技地走りを放った!
ガキイィィン!
「えっ!?」
しかしその攻撃は、あろうことかユキトが受け流したのだった。
「ユキトさん、どうして!?」
「貴様!ミスズに何をする気だ!!」
どうやらユキトの目には、ユリアンはミスズに危害を加える人に映っているいるようだ。ユリアンの攻撃を防いだユキトの目は、ミスズを愛する故に発生したユリアンに対する憎悪に包まれていた。
「ユキトさん、何度も言うようにその人はミスズ姫なんかじゃありません! いい加減目を覚まして下さい!!」
「そうか……お前が今までミスズを苦しめていた奴だな……。よくも今までミスズを苦しめていたな! 許さん!!」
ユリアンの呼びかけはユキトには届かなかった。それどころか今のユキトの目にはユリアンはミスズを苦しめていた悪しき存在として映っていた。
「ミスズが今まで受けていた苦しみ、痛み、哀しみ……その全てを今ここで絶ち切る! デミルーン!!」
そしてついにユキトはユリアンに剣を向けるのだった。
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「ユキトさん!!」
ガキイィィン!!
自分に向かって来るユキトを、ユリアンは不本意ながらも東方不敗で受け止めた。
「ほう、俺のデミルーンを受け止めるとはなかなか腕の立つ奴だな……。だが!」
攻撃を受け止められたユキトは一度ユリアンから離れ間合いを整えた。
「ならばこれはどうだ! デミルーンエコー!!」
曲刀固定技デミルーンを止められたユキトは、デミルーンを強化した技デミルーンエコーを持って再びユリアンに挑んだ。
「くっ!」
ガキイィィン!!
「ほう、また受け止めたか……。だが!」
ガキガキィィン!!
「うわあああ〜!!」
デミルーンは辛うじて受け止めたユリアンだったが、対象物に斬り付いた衝撃の余波から衝撃波が巻き起こるデミルーンエコーは、完全に防ぎ切ることが敵わなかった。
「はぁはぁ……」
剣そのものは防いだものの余波の衝撃波に傷付けられたユリアンは、傷の痛みから床に膝をついてしまった。
「どうやらそこまでのようだな。止めはこの技で刺す! 疾風剣!!」
傷を負ったユリアンをあと一撃で倒せると確信したユキトは再び間合いを取り、そして剣技疾風剣をユリアンに向けるのだった。
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ヒュ、ドガガガッ!
ユキトがユリアンに今正に迫ろうとした刹那、何処からともなく矢が飛んで来た。その矢は床に刺さると激しい威力を発揮し周囲の床を吹き飛ばした。
「くっ、新手か! 一体何処に!?」
体制を立て直したユキトは辺りを見回し矢を放った張本人を探すも、それらしき人物は確認出来なかった。
(この矢、一体誰が……)
突如飛んで来た矢。誰が飛ばしたかも気になるが、何よりユリアンは矢の威力に驚いた。通常の矢では床を破壊することなど到底不可能だ。こんなことが出来るとしたらそれは伝説の……
(もしや……!?)
ユリアンの脳裏に一つの解答が浮かび上がった。これだけの威力を出せる弓矢は聖王遺物の妖精の弓と矢くらいしかない。妖精の矢は狩人の試練の間に保管されていてそう簡単に運び出せない。となると自ずと答えは絞れてくる。それは何者かが狩人の試練を乗り越え、妖精の弓矢を持ちつらい試練に挑んで来たのだ。そして今最も試練を乗り越えた可能性がある人物は……
「ユリアン、大丈夫!?」
天井の裂け目から聞こえて来た声はシオリの声だった。
「シオリ、やっぱり君か!」
今度は間違いなく本物のシオリだ。妖精の弓矢を所持しているならロアリングナイトを倒せても不思議じゃない。今度こそ本当のシオリだとユリアンは確信したのだった。
「でもシオリ、君がどうしてここに?」
「狩人の試練をクリアしたからユリアンのことが気になって王者の試練の間に向かったの。そしたら既にクリアした後だって聞いたからそれで……」
「そこかっ! 風よ、我に立ち向かう者を切り裂く刃となれ!ウインドダート!!」
二人の会話によりシオリの位置が確認出来たユキトは、シオリの方に向かい蒼龍術ウインドダートを唱えた!
カキ、カキィィン!!
だがウインドダートは何者かの見事な剣さばきによって弾かれた。
「ふう、師に対し攻撃を行うとは……」
「りゅ、柳也さん!」
ユキトのウインドダートを弾いたのは、氷銀河から”氷の剣”を取って来た柳也だった。
「ユリアン、お前の為に氷の剣を取って来たぞ。しかしその前にユキトをどうにかせんとな。
シオリさん、状況を見る限りユキトは恐らくあの魔物に操られている。あの魔物を倒せばユキトは元に戻るのだが、貴方の矢で射抜くことは叶わぬか?今から攻撃に向かうよりそれが一番手っ取り早いのだが」
「はい、やってみます!!」
柳也に呼応し、シオリは妖精の弓を構えた。
「行きます! 妖精の矢!!」
シオリは渾身の魔力を妖精の矢に込め、舞姫目掛けて放った!
「させるか!」
しかし向かって来る矢を弾き返そうと、ユキトが舞姫の前に出た。
「でやぁっ!」
ユキトは素早い太刀筋で妖精の矢を弾き返そうとした!
「そうは行きません!我が意志により動け、妖精の矢!!」
しかし妖精の矢はシオリの意志により軌道を変え、ユキトをすり抜ける様に舞姫に向かって行った。
「ギャアアアアア〜〜!!」
舞姫は必死に避けようとするが軌道を自由に変えられる妖精の弓を避けられる筈もなく、断末魔を叫びながら沈黙した。
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「ミ、ミスズ〜〜!!」
倒された舞姫をミスズだと思い続けているユキトは、急いで舞姫に駆け寄った。
「うっ、こいつはミスズじゃない!」
舞姫が倒されたことによりユキトは正気を取り戻した。そして今まで自分が見ていたミスズが偽者であることにようやく気付いたのだった。
「ユキトさん、貴方は今までミスズ姫の幻覚を見せられていたのですよ……」
正気を取り戻したユキトに、ユリアンは事の一部始終を話した。舞姫に幻覚を見せられていたこと、そして偽者のミスズを守る為にユリアンと対峙したことを。
「そうか、俺は今まで幻覚を見せ続けられていたのか……。
くうっ! 俺としたことが、こんな魔物に簡単に騙されてしまうなんてっ!!
最初は、最初は幻覚だって分かってたんだ!こんな所にミスズがいる筈がない、そう理解出来ていたのにも関わらず、あの魔物に抱かれた瞬間頭の中が真っ白になってしまったんだ! ミスズだと思ってしまったんだ!!
情けない! 本当に情けない!!」
ユキトの悲痛の叫び。それは自分に幻覚を見せていた舞姫ではなく、その舞姫に簡単に心を許してしまった自分自身に向けられた。
「あの魔物舞姫は試練に挑む者の心を読み、その者が一番想っている人の幻覚を見せ、更にはその者が想っている人とどう接したいかまで読み取り、幻覚をより本物に見せさせる。そう以前八百比丘尼様に聞いたことがある。
誰だって己が想いし者の前では動揺し、多くの者は取り込まれる。取り込まれなかったとしても己の想い人にはそう易々と手をかけられぬものだ。故にこの試練は”つらい試練”と呼ばれているのだ」
「そのミスズさんっていう人がユキトさんにとって一番大切な人なんですね。
ねえ、ユリアンは誰が見えたのかな?」
「えっ!? えっと、それはその……」
シオリの素朴な疑問にユリアンは慌てふためいた。自分はシオリを見た。そんな大それた事本人の前で言える筈もなく、ユリアンは頬を赤くしひたすら動揺を続けた。
「さてと……。師匠、済まないが手を貸してくれ!」
「いいだろう。お前のやること大体想像がつく」
「恩に着る、師匠。地を這う棘よ、その切っ先にてかの者等の動きを封じん! ソーンバインド!!」
ユキトは蒼龍術ソーンバインドを唱え、魔法の棘を柳也の腕に巻き付けた。
「ユキトさん、一体何を?」
「ユリアン、俺はここでリタイアする。自分の力で幻覚を破れなかったんだからな。ここから先はお前一人で行け!」
「でもユキトさん、ここまでこれたのはユキトさんがロアリングナイトを倒したからで、決して僕一人の力じゃ……」
「いや……。舞姫の幻惑に打ち勝ったお前なら俺の力を借りなくともロアリングナイトを打ち倒せた筈だ。自分の力を信じて先に進め、ユリアン!」
「……。はい!」
長い沈黙の後、ユリアンは大きな声で頷いた。
「師匠、上に上げてくれ!」
「あい分かった!」
ユキトの声に呼応し、柳也は片手でユキトを上げた。
「ユリアン、受け取れ!」
ユキトを上げ終わると、柳也は間を置かずに下の床に突き刺さるように氷の剣を投げ付けた。
「ありがとうございます。それでは行って来ます!」
氷の剣を受け取ると、ユリアンは三人に声を掛けつらい試練の間の更なる奥へと足を進めて行くのだった。
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「シオリ、いいのか後を追わなくて?」
「はい。強い武器も手に入れたんですから、ここから先ならユリアン一人でも大丈夫でしょうし」
ユリアンの身を案じ、氷の剣を届けに来た柳也と共につらい試練の間を訪れたシオリ。当初はユリアンと行動を共にしようと思っていたが、ユリアンの力を信じてこれ以上は後を追わないことにした。
「そういえばユキトさん。ミスズさんってどんな人なんです?」
「ミスズか……。ミスズはな……」
シオリの問い掛けに対し、ユキトは自分とミスズとの関係をゆっくりと話し始めた。ミスズがエル=ファシルの王女であること、そしてエル=ファシル滅亡の際行方不明になったことを。
「……それで旅を続けているんですね」
「ああ……。今何処にいるか分からないミスズを探してな」
「こんなこと聞くのは失礼かもしれませんけど、もう死んでいるとかもう二度と逢えないなんて思ったことあります?」
「いや、そんなことは一度足りともないな。常々ミスズは絶対に生きていて必ずまた逢えると思っている!」
長い長いミスズを探す旅。ミスズの噂を聞いてはそれが噂に過ぎなかったという挫折の繰り返し。そんな中でもユキトは頑なにミスズに逢えると信じ続け、旅を続けているのだった。
(ミスズ……、今お前は何処で何をしているんだ? 俺と再び巡り逢えるその時まで無事でいてくれ!)
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「何度も言うとるやろ。アンタラじゃ逆立ちしとうたってウチには敵わんとな」
「くっ。我等が主の為に必ず倒して見せる!」
ここはランスからは南西に位置する街、モウゼス。この街では昔からハルコが玄武術士を養成する私塾を営んでいたが、数年前街にボルカノという男が現われ朱鳥術士養成の私塾を開くようになってから、両者の経営を巡るトラブルが続いていた。両者は互いに幾度となく相手に刺客を送り倒そうとするも、双方共倒れの状態になり長い膠着状態に陥っていた。
「ま、今や青銅玄武術士はおろか白銀玄武術士もアンタラには敵わへんし、黄金玄武術士ですら五分やからな。その努力は認めたるわ。
けどな、それでもウチにはまだまだ敵わへん」
『我が体に眠りし熱き魔力よ、真空と交わり形となれ! エアスラッシュ!!』
「水よ、ウチを守る柱になるんや! ウォーターポール!!」
ボルカノの刺客達は一斉に朱鳥術エアスラッシュを唱えたが、その攻撃はすべてハルコの玄武術ウォーターポールの水の柱に掻き消されてしまった。
「無駄や無駄や。エアスラッシュ如きウチには通用せん。ウチを倒したかったら、ファイアウォールを自在に使いこなせるようになってから来るんやな」
「クッ!」
「ほな、これでさいならや。水よ、雷と手ぇ組んでアイツラを痺れさせるんや! サンダークラップ!!」
『ぐわわ〜〜!』
ハルコの唱えた玄武術サンダークラップは、術の詠唱は適当と言えるものであったが、威力そのものは常人が唱えたものより強かった。致命傷になる程の威力はなかったが、それでもボルカノの刺客達には充分過ぎる位のダメージを与えた。
「さっ、負けを認めてとっとと帰るんやな。いっとくが、今のはアンタラが自分の足で帰られるようかなり手加減してやったんや。ウチが本気出したら、アンタラ全員今頃極楽逝きやで」
「くっ、退却!」
ハルコに敵わないと悟った刺客達は、尻尾を巻くようにボルカノの元へ帰って行ったのだった。
「ただいま〜」
「おっ、ミスズちん帰って来たな〜。頼んだモンはちゃんと買うてきたか?」
「うん、ちゃんと買ってきたよお母さん」
…To Be Continued |
※後書き
今回はユリアンを中心に話が進んで、銀英伝をよく知らない方には詰まらない話だったかもしれません。今更言うのも何ですが、銀英伝をよく知らない方は作中に登場する銀英伝キャラはオリキャラか何かと思っていただければ幸いです。
さて、今回は”つらい試練”の魅力テストを書きました。原作では誘惑攻撃を受け続ける中4ターン耐えるというものですが、少しアレンジしました。
しかし、栞の弓さばきといい、柳也が往人を片手で上げたといい、ケレン演出が目立ちますね。まあ、栞の弓さばきは栞の魔力の高さを表しているとご理解下さい。また、柳也の方はドラゴンルーラーを一人で倒したのだから人一人を持ち上げることが出来る力を持っているということで。
そして、最後に晴子さんと観鈴が出て来ましたが、この二人の詳しい詳細は追々書きますので楽しみにしていて下さい。 |
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